10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない



だって美織ちゃんは、私が社長と同居していることを知らないし、翔とどうして別れることになったのか、その本当の理由も知らない。

ただ、元婚約者だったという事実だけを知っているだけで、その裏側にあった選択や、私が何を優先して生きてきたのかまでは知らないのだ。

私には、仕事しかないってことを。仕事を選んでから、それ以外のものを全部置いてきたみたいな生き方をしてきたことを。


「上手くいきますよ!付き合えたらまた教えてくださいね!」


ぱっと明るく笑ってそう言い切る美織ちゃんに、私は「ありがとう」と笑って返したけれど、心の奥では小さく首を振っていた。

付き合えたら、なんて。そんな未来、きっと来ない。来るはずがないって、どこかでわかっているから。

それでも、その人を好きになってしまった気持ちだけは、どうしても否定できなくて、ただ胸の奥で静かに揺れている。


「ちなみに相手は誰ですか?社長だと思ってたんだけどな~」


無邪気に投げかけられたその質問に、私は一瞬だけ息を止めて、それからすぐにふっと笑って誤魔化した。

私はフォークを手に取り、目の前のパスタをくるくると巻きながら、何事もなかったかのように口へと運んだ。


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