10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない


少しだけ残業をしてマンションに着いたころには、まだ空はうっすらと明るさを残していて時計は6時を指していた。

社長、今日忙しそうだったな。相手が誰だったのかは分からないけれど、かなり偉いお客さんが来ていたらしく、秘書の神宮寺さんが朝から落ち着かない様子でバタバタと走り回っていた。だからきっと今日は帰りも遅いんだろう。


そう思いながら私はいつものようにカードキーを取り出してエントランスを抜け、自分の部屋の前に立った。そして何も疑わずにカードキーをかざし、中に入った瞬間だった。


目に飛び込んできたのは玄関に無造作に投げ出されるように置かれている靴だった。社長の靴だ。
見慣れているはずなのに、その乱れ方があまりにも普段とかけ離れていて、思わず息を呑む。

こんなこと、普段なら絶対にしない。必ず揃えて置いてあるはずなのに。


胸の鼓動が一気に早くなる。何かあったのかもしれない、そんな考えが頭をよぎって、私は靴を脱ぎ捨てるようにして急いでリビングへ向かった。

部屋の中は静まり返っていて、不気味なくらい音がない。その静けさが逆に不安を煽る。リビングに入ると、ソファの上に無造作に放り出されたスーツが目に入った。それもやっぱり社長のものだ。

普通じゃない、絶対に何かおかしい。

私はそのまま足を止めることなく、社長の部屋の前まで来ていた。ドアの前に立つと、急に怖くなる。もし中で倒れていたらどうしよう、もし取り返しのつかないことになっていたらどうしよう、そんな最悪の想像ばかりが頭を埋め尽くす。

それでも確認しないわけにはいかない。意を決して、コンコンと軽くノックをした。でも返事はない。

もし倒れてたりしたら…その考えが現実味を帯びた瞬間、サーッと血の気が引いていくのが分かった。


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