10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「…梨沙?」
かすれた声が静かな部屋に溶けるように響いた瞬間、ゆっくりと開かれたその瞳と真正面からぶつかって、心臓が跳ねる。
「…っ、」
思わず息を呑んで固まる。今の状況、どう見てもおかしい。ベッドに押し倒してるみたいな体勢で、しかもシャツのボタンを外してる最中で、これじゃまるで私が社長を襲ってるみたいじゃないか。
「す、すいませんっ、えっと…」
慌てて言葉を探すのに、うまく声にならない。どう説明すればいいのか分からなくて焦る私を見つめたまま、社長はぼんやりとした表情で小さく呟いた。
「梨沙だ」
「…え?」
ふわっと力の抜けた笑みを浮かべる社長は、顔が赤いままで、額にはじんわりと汗がにじんでいる。熱で潤んだ目元も、どこか焦点が定まっていない視線も、いつもの隙のない姿とはまるで違っていて、その無防備さに胸がぎゅっと締め付けられる。
はだけたシャツの隙間から覗く鎖骨や肌に、思わず生唾を飲み込んでしまう自分がいて、慌てて視線を逸らした。
「なんでいんの…?」
弱々しく、それでもどこか安心したような声でそう聞かれて、私は少しだけ息を整えてから答える。
「ノックしても、返事がなくて…」
その先の言葉は飲み込んだ。心配だったから、怖かったからなんて言ったら、きっとこの人はまた無理をして大丈夫だなんて言うに決まってるから。