10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「夢?」
「え?」
社長はだるそうにゆっくりと腕を持ち上げると、私の手を探すようにして触れてきて、そのまま弱い力でぎゅっと掴んだ。そして何の迷いもなく、その手を自分の頬へと引き寄せる。びくっと体が震える。
「梨沙の手、きもちー」
熱を持った頬に私の手が当てられて、その温度の高さに驚くと同時に、くすぐったいような感覚が広がる。
「…っ、」
何も言えなくなる私をよそに、社長は目を閉じてそのままスリスリと私の手に頬を寄せてくる。その仕草があまりにも無防備で、まるで子どもみたいで、思わず頭がくらくらする。
か、かわいい…なんて思ってしまった自分に慌ててブレーキをかける。
「しゃ、社長…熱測りましょう?」
なんとか理性を保ちながらそう言うと、社長はうっすらと目を開けてぼんやりとしたまま首をかしげる。
「熱?」
「また上がってるかもしれません」
できるだけ落ち着いた声で言ったつもりなのに、少し震えてしまう。こんな状態で放っておけるはずがない。
「んー…だいじょうぶだから、梨沙はあっち行って」
さっきまで手を握っていたのに、急にぱっと離されて、そのままそっぽを向かれる。その仕草に、ああやっぱりと思う。この人のことだから、きっと私にうつしたくないとか、そういうことを考えてるに違いない。
こんな時まで他人優先なんて、本当にずるい人だ。だけど今回は、そんな遠慮を聞くつもりはない。私は無言のまま体温計を手に取ると、問答無用で社長の脇に差し込んだ。