10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない



「社長、だめですよ。今は、私に甘えてください」


少しだけ強めに言い切る。驚いたようにこちらを見る社長の視線を真っ直ぐに受け止めながら、私は続けた。

いつも私が甘やかしてもらってるんだから、こんな時くらいは役に立ちたいし、頼ってほしい。こんな弱っている姿を見せてくれるのが少しだけ嬉しいなんて思ってしまう自分に戸惑いながらも、それでもこの人を放っておくなんて選択肢は最初からなかった。

だから今だけは、遠慮なんていらない。

私はそっと社長の額に手を当てて、その熱を確かめるように優しく撫でた。


「…甘える?」


かすれた声で繰り返されて、胸の奥がきゅっと締め付けられる。


「はい。“甘える”です」


そっぽを向いていた社長がゆっくりと、ほんの少しずつ首をこちらへ向けてきた。とろんと潤んだ瞳と、熱で火照った頬。その表情があまりにも無防備で、不謹慎だと分かっているのに、どうしようもなくかわいいと思ってしまう自分がいる。

こんな顔、他の誰にも見せたくない、なんて独占欲みたいな感情まで浮かんできて、慌ててそれを押し込めた。

ピピッ、と小さな電子音が鳴って現実に引き戻される。体温計を取り出して表示を見ると、さっきとほとんど変わらない数字がそこにあった。

やっぱり高いまま…。これはさすがにまずいんじゃないの。この時間だと普通の病院はもうやっていないはずで、行くなら救急になる。でも、この状態で連れ出していいのか、それとももう少し様子を見るべきなのか、判断がつかない。

どうしよう、どうしたらいい。

頭の中でぐるぐると考えが巡って、焦りだけが募っていく。


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