10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「…り、さ?」
掠れた声に名前を呼ばれて、我に返り、慌てて手に持っていたタオルを落としてしまう。
何やってるの、私。病人相手に、こんな…!いや、相手が病人じゃなくたって、こんなの絶対にだめだけど!
自分を叱るように心の中で言い聞かせながら、慌ててタオルを拾おうとした、その瞬間だった。
気づけば、後頭部に社長の手が回っていて、ぐっと強く引き寄せられる。
不意の力にバランスを崩して、そのまま一気に距離が縮まる。
目の前にあるのは、さっきまで見ていた社長の顔。だけど、どこか違う。熱でぼんやりしていたはずの瞳は、今は妙に鋭くて、まるで逃がさないと言われているみたいで――一瞬、息が止まる。
「…っ、んっ…!?」
考える間もなく、唇が強く重ねられた。
驚きで目を見開いたまま固まる私をよそに、逃げる隙も与えないまま社長の舌がヌルリと触れてくる。触れ合った瞬間、体の奥まで熱が広がるようで、思考がぐちゃぐちゃになる。
「んっ…しゃ、ちょっ…」
かろうじて声を漏らすけれど、その声すら飲み込まれるみたいに距離を詰められる。気づいたときにはもう遅くて、腰を引き寄せられて完全に逃げ場を失っていた。
ベッドの上で、社長の上に乗るような体勢になってしまっていて、こんなのどう見てもおかしいのに、離れることもできない。
重ねられる唇はどんどん熱を帯びていって、その強さに耐えきれず、思わず社長の肩をぎゅっと掴む。触れた体はやっぱり熱くて、でもその熱以上に、舌が触れ合うたびに伝わってくる感覚に頭が追いつかない。
「…っ、んっ…はぁ…」
息がうまくできなくて、苦しいのに、離れてほしいのかどうかすら分からなくなる。
だめ、って思う。熱があるのに、こんなことしていいわけがないって。でもそれ以上に、どうして私にこんなことをするのか、その理由が分からなくて混乱する。
どうして、私なの?社長は私のこと、どう思ってるの?ただの部下じゃないの?それとも――頭の中に浮かぶ疑問が、次から次へとあふれてきて、息苦しさとは別の意味で胸を締め付ける。