10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
体を起こした社長は、まだ少しぼんやりした様子で不思議そうに首を傾けていた。
その仕草が妙に落ち着いて見えて、さっきまでの騒ぎが嘘みたいに静かな空気が部屋に戻ってくる。
「…っ!」
でも、心の中では全然落ち着いてなんていなかった。
熱が…熱が下がったら、絶対聞きますからね!?私のことどう思ってるのか、なんであんなことしたのか、全部!ねぼけてたなんて、そんなの絶対に許しませんからね!
勢いよく心の中で叫んでから、はっと我に返る。
この人は病人だ、と自分に言い聞かせて呼吸を整える。
ふーっと小さく息を吐いてから、できるだけいつも通りを装って社長を見上げた。
「体調、どうですか?だいぶ、よくなりました?」
「……ああ」
短い返事。もう少し何か言えないのか、と内心で突っ込みながらも、続けて問いかける。
「おかゆ、食べれそうですか?」
「……ああ」
また同じ返事。ああ、って。それしかないんですか、と言いたくなるのをぐっと堪える。病人だ、病人。