10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
口に出した瞬間、焦りの向きがくるりと変わって、自分の内側に突き刺さる。美織ちゃんが小さく息を止めた気配がする。
「いえ、私が入力を……!」
「入力はそうだけど……でも、ここ通す前に一回止められた」
自分のミスをなぞるみたいに言葉を続けながら、エンターキーを押す。画面が一瞬、更新待ちで止まる。そのほんの数秒がやけに長く感じられて、時間の感覚が引き伸ばされる。
「ごめんね」
ゆっくりと顔を向けると、美織ちゃんが小さく息を飲むのが分かった。
「今これ、私の確認も抜けてる。急いでるときほど、こういうの落としちゃうんだよね。ごめんね」
言いながら、自分でも情けないと思う。画面が更新されて、ばらついていた数字が少しずつ揃い始める。
「とにかく修正入れる。締めに間に合わせる。美織ちゃんは同じコード使ってるとこ全部洗ってくれる?」
「はい……!」
少し震えながらも、はっきりと返事をして、美織ちゃんが自分のデスクへと戻っていく。その背中を一瞬だけ見送ってから、再び画面に向き直る。
「……ふぅ……」
小さく息を吐く。焦っているときに限って、ちゃんと見ているはずのものが抜け落ちていく。確認したつもり、分かっているつもり、その全部が簡単に崩れる。まして新人の美織ちゃんなら、なおさらだ。
本当は、もっと前で止められたはずだった。私が、フォローしなきゃいけなかった。私が、ちゃんと見ていればよかった。見落としたのは、結局――私だ。