10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
やっぱり、私だった。また――。頭の奥が、じわりと白くなる。
「白石。どこまで確認した?」
「一通り確認は…」
やっとの思いで言葉を絞り出す。一度は確認したはずの項目。でも、それでも、どこかに抜けがあった。
「一通りってなんだ?」
「…っ、」
声が出ない。久しぶりに見た、仕事モードの社長だった。家で見せる柔らかい表情とは、まるで別人みたいに冷静で、容赦がない。その鋭い目が、まっすぐに私を捉えて離さない。その視線を真正面から受け止めた瞬間、体がすくんだ。こんなふうに見られるの、いつぶりだろう。
「すみません…すぐ確認します」
なんとかそう言って、視線を画面に落とし、慌ててマウスを動かす。手元が少し震えているのが、自分でも分かる。スクロールするたびに、数字が滲んで見える。
ああ、もう――泣きそうだ。
「原価、全部洗いなおす。担当振り直すぞ」
部長の声が飛ぶ。その指示で、周囲が一斉に動き出す気配がした。
「白石、気を抜くな」
社長から去り際に落とされた一言。その声は大きくないのに、やけに深く刺さった。
「……はい」
かすれるような小さな声で返事をするのが精一杯だった。
顔を上げることができない。情けなくて、悔しくて、でもそれ以上に、自分の不甲斐なさが胸に広がっていく。
ただ画面を見つめながら、必死に涙をこらえた。ここで泣くわけにはいかない。そんなこと、分かっているのに。視界の端がじんわり滲んで、数字がうまく追えない。