10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない

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結局マンションにたどり着いたのは、23時をとっくに回っていた。エレベーターの中で映る自分の顔は、ひどく疲れていて、どこか情けなくて、それでも「終わった」という安堵だけが胸の奥にじんわりと広がっていた。長い一日だった。

ほんの少しだけ肩の力を抜きながら玄関を開ける。

その時、リビングの扉の隙間から漏れる光に気づいた。

電気が、ついてる。社長はもう部屋だと思っていたのに。帰りが遅くなるって、ちゃんと連絡はした。だからきっと、先に休んでいると、そんなふうに勝手に思い込んでいたのに。

どうして、まだ起きてるの。どうして、ここにいるの。

頭の中に、ついさっきの出来事が鮮明によみがえる。会社でのミス。久しぶりに向けられた、あの「社長」としての顔。厳しい目。
自分の不甲斐なさが、嫌でも突きつけられる。なんであんなミスしたんだろう。どうして確認を怠ったんだろう。経理部のみんなの時間まで奪ってしまって、結局、社長の手まで煩わせてしまって。

本当に、最低だ。こんな自分が、ここに帰ってきていいのかな。どんな顔をして、会えばいいの。謝る?それとも、何もなかったふりをする?そんなの、できるわけないのに。

扉を開ける勇気が出なくて、その場に立ち尽くしていると、不意にガチャ、と内側から音がした。
驚いて顔を上げた瞬間、扉が開く。


「梨沙?おかえり」


その声は、あまりにも優しくて、あまりにもいつも通りだ。

目の前にいるのは、さっき会社で見た「社長」じゃない。柔らかく微笑む、家での社長だ。少しだけ目を細めて、安心したようにこちらを見るその表情に、胸の奥に溜め込んでいたものが一気にあふれそうになる。

泣いちゃだめだ、ここで泣いたら、もっと迷惑かけるのに。必死にこらえるけど、視界がじわっとにじむ。


「入らないのか?」


そう言いながら、社長はほんの少しだけ困ったような、どこか申し訳なさそうな顔をした。その表情に、また胸が締めつけられる。
もしかして、さっきのこと、気にしてるのは私だけじゃないの…?


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