10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
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「今日、社長家にいないの?」
目の前で相変わらずいい飲みっぷりを見せる紗耶香は、グラスを傾けながら私の顔をじっと覗き込んでくる。
「辛気臭い顔するな!」そう言って軽く肩を小突かれて、思わず苦笑いがこぼれた。
「今日から3日間、出張なんだって」
朝、目が覚めたときにはもう社長の姿はなかった。リビングに行くと、食卓の上にぽつんと置かれた小さなメモが目に入った。「今日から3日間出張に行ってくる。昨日のご飯は冷蔵庫に入ってるから、元気があったら食べて。無理するなよ」たったそれだけの言葉なのに、胸が温かくなって、同時に締めつけられるような感覚にもなった。優しさが、こんなにも苦しいなんて思わなかった。
「梨沙、最近元気ないよね?やっぱり月末忙しかった?井口も心配してたわよ」
「…井口が?」
意外な名前に、思わず顔を上げる。そういえば最近、会社で井口の姿をあまり見かけていない気がする。
「白石の顔見に行っても話しかけられる雰囲気じゃないとかなんとか…泣いてた」
「泣いてたって…」
思わず呆れたように返すと、紗耶香はケラケラと笑う。ほんと、この人はどこまでが本当でどこからが冗談なのか分からない。でも、心配されていたことに少しだけ胸がチクッとした。
「それで、何があったの?」
グラスを置いて、紗耶香は少しだけ真剣な目で私を見る。翔と付き合っていた頃から、ずっと話を聞いてくれていた相手だからこそ、簡単に誤魔化せない。
「…好きな人が、できたの」
自分でも驚くくらい素直に言葉が出た。言った瞬間、胸の奥がドクンと大きく鳴る。次の言葉を待つ間が、やけに長く感じた。でも紗耶香は間髪入れずに言った。
「社長?」
隠すつもりもなかったけど、こんなに簡単に見抜かれると少し悔しい。小さく頷くと、紗耶香は「やっぱり!」と嬉しそうに身を乗り出した。
「好きにならないわけないよね。よかったじゃん!」
頬杖をつきながら、まるで自分のことのように笑うその顔は、どこまでも明るい。その無邪気さに救われる部分もあるけど、今の私には少し眩しすぎた。