10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「井口は何してたの?」
「慰め会という名の飲み会」
「ふふ、なにそれ」
「営業に最近失恋した奴がいて、そいつに付き合ってたんだよ」
あぁ、なるほど。なんとなく想像がついて、納得する。靴を履かせ終えた井口が立ち上がって、私を見下ろす。
「井口、ありがとぉ」
素直にお礼を言うと、井口は一瞬だけ眉間に皺を寄せた。
「お前、酔ってんだろ」
呆れたような声。
そうかな、と思いながらも、確かにさっきは紗耶香と恋愛の話をしていて、いつもよりペースが早かったかもしれないと今さら気づく。
「家まで送る。心配だから」
「えっ!?いいよ、いいよ!」
反射的に手と首をぶんぶん振る。
そんなことされたら困る。家まで送られるってことは、あのマンションまで行くってことで!つまり社長と同居していることがバレる可能性があるってことで!
「大丈夫だから!」
そう言いながら一歩後ろに下がった瞬間、足元がふらつく。
あ、やばい、と思った時にはもう遅くて、体がぐらりと傾く。
「白石!」
その声と同時に、ぐらりと傾いた体がふわっと支えられる。背中に回された腕の力強さに、倒れかけていた体がぴたりと止まった。間一髪だった。あとほんの少し遅れていたら、そのまま地面に倒れていたかもしれない。
「…っ、」
安堵よりも先に、妙な既視感が胸をかすめる。すぐ近くにある井口の顔。その距離感、その体勢、その温度。頭の奥で何かが弾けるみたいに、記憶が一気に蘇る。