10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
やっとの思いで送ったあと、すぐに画面を閉じたくなる。でも気になって、結局また開いてしまう。既読はつかない。もともと返信が早い人じゃないのは分かってる。それでも、このままずっと未読だったらどうしようとか、変なことばかり考えてしまう自分がいる。
こんなふうに一喜一憂している自分が、少しだけ嫌になる。空気が少し沈んだ気がして、慌てて話題を変えるように口を開いた。
「…井口に会ってる?」
「まあ、会社で顔合わせるくらいかな」
紗耶香は特に気にした様子もなく答える。
「元気にしてる?」
「普通?もしかして、とうとう告白でもされた?」
さらっと言われて、心臓が一瞬止まったような気がした。やっぱり、この人は分かってる。全部見透かされてるみたいで、隠していたものが一気に表に出てきそうになる。泣きそうになるのを必死にこらえて、ぎゅっと目を閉じる。
「全部を同じくらい大事にするのは無理だよ…どうしても優先順位ができちゃう」
絞り出すように言葉がこぼれる。どれも大事にしたいのに、全部を同じように扱うことなんてできない。そんなこと、分かっているはずなのに、どれかを選ぶことが怖くてたまらない。選んだ瞬間に、何かを失う気がしてしまうから。
どうしたらいいんだろう。どうしたいんだろう。自分でも分からないまま、ただ不安だけが大きくなる。
「別にそれでいいんじゃない?」
あっさりとした声に、思わず顔を上げる。
「梨沙の中で変わらないものが一つあれば、それでいいんだよ」
「私の中で…」
その言葉を反芻するように呟く。
「そう。社長のことが、好きなんでしょ?」
にこっと笑いながら、紗耶香は迷いなくそう言い切る。そして何事もなかったかのように「お肉全部入れるねー」と鍋に視線を戻した。
変わっていく自分が怖いと思っていた。気持ちに振り回されて、自分じゃなくなっていく気がしていた。
でも——変わらないものが、一つあるとしたら。それは、きっと…。