10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない



手元に置いてあったスマホが、小さく光る。そういえば、さっき送ったままだった。返事、来てるかもしれない。心臓が少しだけ速くなる。たったそれだけのことで、こんなにも緊張する自分に呆れながらも、恐る恐る画面をつける。

通知は一件。社長からだった。〈わかった〉それだけ。たった一言。余計な言葉も、感情も、何もない、いつも通りの短い返事。それを見た瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。

未読のままじゃないんだから、いいはずなのに。ちゃんと返事をくれた。それで十分なはずなのに。どうしてこんなに苦しいんだろう。「わかった」って、それだけ?それだけで終わり?


「梨沙?」


紗耶香の声に、はっと顔を上げる。


「やっぱり、今日は帰ったら?」

「…え」

「梨沙自身も、もう答え分かってるんじゃないの?」


笑いもせず、真っ直ぐにそう言われて、言葉を失う。箸を持っていた手から力が抜けて、気づけばテーブルに置いていた。


仕事が好きで続けたいって思うこと、それ自体は全然おかしくないんだ。

むしろ自然なことだし、それを否定されるものでもないはずだ。

たぶん今しんどいのは、仕事を続けたいこと、そのものじゃなくて、これから誰かと関係を持つときに“それが受け入れてもらえるのか分からない怖さ”とか、もし結婚とかの話になったら自分はどうなるんだろう、っていう未来の不安だ。


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