10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
いろんなことから逃げるのは、もうやめよう。
胸の奥でそう決めた瞬間、不思議と少しだけ足が軽くなった気がした。紗耶香に「ありがとう」と伝えて、荷物を持って玄関へ向かう。ドアノブに手をかけて、深く息を吸う。
そのまま扉を開けた——その瞬間だった。
「…梨沙!」
聞き慣れた声に、反射的に顔を上げる。
「えっ…」
目の前には、息を切らした社長が立っていた。髪も少し乱れていて、明らかに走ってきたばかりだと分かる。その姿に、一瞬思考が止まる。
なんで、ここに?どうして?
そんな疑問が頭に浮かぶ前に、手首をぐっと引かれる。
「ちょっ——」
言葉を発する間もなく、そのまま強く抱きしめられた。突然のことに体が固まる。でも次の瞬間、ふわっと鼻をかすめたその匂いに、胸がぎゅっと締めつけられる。
安心する匂い。ずっと近くにあった、変わらないもの。包み込むような腕の力も、背中の広さも、全部そのままで——思わず泣きそうになる。どうしてここにいるの。まさか、本当に私を…?
「お前がいないと、調子が狂う」
「…っ」
耳元で落とされたその言葉に、心臓が大きく跳ねる。抱きしめている力は強いのに、その声はどこか頼りなくて、ひどく幼く聞こえた。