10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
こんな社長、見たことない。いつもは余裕があって、何でも分かっているみたいな顔をしているのに。
社長はゆっくりと腕を緩めて、私を離す。
「なんで急にいなくなるんだよ」
その表情は、明らかに傷ついていた。胸が痛む。いなくなったわけじゃない。ただ一日、泊まるって連絡しただけ。それでも、この人にとっては「いない」ことになるんだろうか。そこまで思われていることに、戸惑いと、ほんの少しの嬉しさが入り混じる。
「最近ちょっと…いろんな面で社長に頼りすぎてる感じがして、自分の時間も少し作りたいなって思ってて」
言葉を選びながら、ゆっくりと伝える。逃げるんじゃなくて、ちゃんと向き合うって決めたから。だからこそ、曖昧なままにしたくなかった。
「今の距離が悪いとかじゃなくて、助かってる部分ばかりなんですけど…」
視線を少しだけ落としながら続ける。
「このままだと、自分で考える時間が減りそうで…少し怖いんです」
正直な気持ちだった。社長といると楽で、安心して、気づけば全部委ねてしまいそうになる。その心地よさに甘えてしまう自分がいるからこそ、怖かった。
もう一度、社長の目を見る。逃げないように、ちゃんと。
「ちゃんと、自分で選んでる感覚を持っていたいんです」
言い切った瞬間、胸の奥にあった何かがすっと軽くなる。怖かった。でも、ちゃんと伝えられた。社長は少しだけ目を細めて、何かを考えるように黙り込む。
でも今は、目を逸らさない。私は、私の足で立っていたいから。