10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
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雨の音が、やけに大きく聞こえていた。
窓ガラスを叩く粒が一定のリズムを刻んで、まるで心臓の音を外側からなぞられているみたいだった。
マンションのリビングに立ち尽くしたまま、私は動けずにいる。帰ってきてからというもの、何度も言おうとして、何度も飲み込んだ言葉が喉の奥で詰まっていた。
「……やっぱり、今のままじゃ嫌です」
ようやく絞り出した声は、雨音に混ざってかすかに揺れた。背後にいる社長に、振り返らずに続ける。
「このままじゃ、私は——」
言いかけて、息が詰まる。この人のそばにいると、安心するのに、同時に自分が少しずつ形を失っていく気がする。気づかないうちに、考える前に、全部委ねてしまいそうになる。
「自分で立っていたいんです」
それだけは、ちゃんと伝えたかった。
でも——それでも、好きだと思ってしまう。どうしようもなく。社長は、この私をどう思っているんだろう。こんなふうに揺れて、逃げて、それでも離れられない私を。好きだと伝えたら、この人はどうするのだろう。
「……そうか」
低く落ちる声。その一言だけで、空気が少しだけ変わった気がした。
「なら、確認する」
一歩。床を踏む音が静かに響いて、距離が詰まる。
「お前は、本当に何も覚えていないのか」
「……え?」
意味が分からない。振り返った瞬間、社長の視線が真正面から突き刺さった。その目は、いつもの落ち着いたものじゃない。どこか、ずっと堪えていたものを必死に押さえているような目だった。