10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「……そんな……」
「だから覚えている。忘れる理由がない」
「……私は、ただ、声をかけただけです。たった、それだけのことで……?」
自分の言葉が頼りなく崩れていく。その瞬間、社長の目がわずかに鋭くなる。
「“それだけ”?」
一歩、距離が詰まる。逃げる隙間もないまま。
「俺にとっては違う」
視線が絡まる。外せない。
「お前は、あの時から例外だ」
心臓が痛いほど鳴る。
「だから探した」
「……っ」
「だが接触はしなかった」
「どうして……?」
震える声で問い返すと、社長はほんの少しだけ視線を逸らした。
「——その時の俺には、何もなかった」
初めて見る表情だった。完璧に見えていた人の奥に、確かにあった“空白”。
「守る力も、余裕も」
そして、またこちらを見る。その目はもう、逃げていない。
「今は違う」
その一言が、重く落ちる。
「やっと手に入れた」
低く、静かに。
「——だから、もう手放さない」
喉の奥が熱くなる。