10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない



「……そんな……」

「だから覚えている。忘れる理由がない」

「……私は、ただ、声をかけただけです。たった、それだけのことで……?」


自分の言葉が頼りなく崩れていく。その瞬間、社長の目がわずかに鋭くなる。


「“それだけ”?」


一歩、距離が詰まる。逃げる隙間もないまま。


「俺にとっては違う」


視線が絡まる。外せない。


「お前は、あの時から例外だ」


心臓が痛いほど鳴る。


「だから探した」

「……っ」

「だが接触はしなかった」

「どうして……?」


震える声で問い返すと、社長はほんの少しだけ視線を逸らした。


「——その時の俺には、何もなかった」


初めて見る表情だった。完璧に見えていた人の奥に、確かにあった“空白”。


「守る力も、余裕も」


そして、またこちらを見る。その目はもう、逃げていない。


「今は違う」


その一言が、重く落ちる。


「やっと手に入れた」


低く、静かに。


「——だから、もう手放さない」


喉の奥が熱くなる。


< 177 / 195 >

この作品をシェア

pagetop