10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「私、井口のこと、同期としても…友達としても、大好きだよ」
言い切った瞬間、少しだけ怖くなる。これで本当に、終わるんだって。井口は一瞬だけ目を見開いて、それから、ふっと力が抜けたみたいに笑った。
「……そっか」
短く息を吐いてから、今度はちゃんとこっちを見る。その目は、思っていたよりずっと穏やかだった。
「やっぱお前は最高の同期だよ!」
そう言って、いつもの調子でくしゃくしゃと頭を撫でてくる。
「ちょ、ちょっと井口…!」
思わず声を上げると、「いいから最後くらい大人しくされとけ」と軽く笑う。
「最後って…」
「区切りだろ」
さらっと言うその言葉に、胸が少しだけ締めつけられる。
「ちゃんと幸せになれよ」
ぽつりと落とされたその言葉に、顔を上げる。
「……うん」
強く頷くと、井口は満足そうに「よし」と言って、手を離した。
「じゃ、仕事戻るわ。これ以上いると未練出るし」
軽く手を振って背を向ける。その背中は、少しだけいつもより遠く見えた。
「井口!」
思わず呼ぶと、振り返らずに手だけひらひらと上げる。
「ありがと」
小さく呟いたその言葉は、たぶん届いていない。でも、それでよかった。これでちゃんと、前に進める。そう思った。