10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
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八百億円の海外取引の一件が終わった翌日、オフィスの空気はわずかに落ち着いているように見えたが、緊張感はまったく消えていなかった。
経理部のデスクに座り、昨日の処理内容を再確認しながら、私はふと周囲を見渡す。
派閥や部署間の微妙な力関係が、これまで以上に顔をのぞかせていることに気づく。
営業部の何人かはまだ海外取引の功績を誇示しようと必死で、総務や企画部の目は私たち経理部に注がれ、まるで「本当にやり遂げられるのか」と試しているようだ。
そんな中、社長は静かにフロアを歩き、各部署に目配せをしている。私のデスクの前で立ち止まり、低く声をかけた。
「白石。今回の件で、リスク管理に関して一つ提案があるか?」
心臓が跳ねる。昨日はただ報告するだけだったが、今日は意見を求められている。緊張で手が冷たくなるのを感じながらも、私は考えた末に口を開く。
「送金前のチェックリストに海外システムの更新スケジュールを加え、再発防止策として定期確認を行う提案です。フローを文書化し、誰でも確認できる体制にします」