10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「もう、何言ってるの、美織ちゃん」
そう言いながら、ついさっきまで社長が歩いていった方向をちらりと見るけれど、もうその姿はどこにもなかった。ほんの一瞬の出来事だったはずなのに、なぜか妙に印象に残っていて、自分でも少しだけ不思議に思う。
「だって、昨日から白石さんとしか話してないですよ〜」
「そんなことないでしょ?それに、あくまで私がそういう立ち位置にいるからであってね?美織ちゃんが私の隣にいるからそう見えてるだけで、部長や課長とはもっとお話ししてると思うよ」
「いやいや、そういうことじゃなくてですね〜」
じゃあ、どういうことなの、と問い返そうとした瞬間、彼女はわざとらしくためを作ってから、ぐっと顔を近づけてきた。
「あ〜んなに、イケメンで仕事できるのに、まだ結婚してないっておかしくないですか?」
一瞬、言葉の意味を理解するのに時間がかかる。
「まだっていっても、32とかじゃなかった?」
記憶をたどりながら答えると、「32!?許容範囲!」と即答されて、思わずぽかんとしてしまう。
なにが、許容範囲なの……。