10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「もうっ、仕事するよ!」
半ば強引に話を切り上げると、「は〜い」と間延びした返事を残して、美織ちゃんはすーっと自分のデスクへ戻っていく。
その後ろ姿を見送りながら、小さく息をつく。ほんと、自由なんだから。
でも――と、ふと頭の中にさっきの言葉がよみがえる。
確かに、あのルックスで、しかも御曹司で、仕事もできるとなれば、周りの女子が騒ぐのも無理はない。
実際、私だって初めて会ったとき、思わず見とれて口が開きかけたくらいだ。
あの整った横顔も、落ち着いた声も、無駄のない所作も、全部がどこか現実離れしていて、同じ空間にいることが少しだけ不思議に感じるほどで――。
恋人くらい、いるんじゃないの……?
…………………って、なに考えてるの、私!やめやめ、こんなこと考えてたら、本当に仕事に手がつかなくなる。
「よー、白石!ちょっといいかー?」
何度も聞いたことのある声に、胸の奥でいやな予感がざわりと動いた。
パソコンからゆっくり顔を上げると、案の定そこには井口が立っていて、片手で紙をヒラヒラさせている。
ため息をひとつつきながら、私は渋々立ち上がる。