10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「井口、新年度早々あんたの顔は見たくないな」
思わず口にした言葉に、井口は軽く笑って肩をすくめる。
「相変わらずひでーな」
首から下げた社員証には「営業部 井口洋介」と書かれていて、胸ポケットに無造作にしまわれている。
「で、何?」
視線を紙に落とすと、井口は少し間を置いてから「ああ」と言い、手元の紙を軽く持ち上げる。
「領収書、遅れて悪い」
見ると、日付はなんと2か月前のものだった。
「ちょっと井口?いつも忘れずに持ってきてって言ってるよね?」
「悪かったって。時期が時期だからさ、取引先との会食やらなんやらで忙しくて忘れてたんだよ」
その言い訳が本当かどうかはわからないけれど、渡された領収書を目にすると、たしかにそれらしいものばかりで、言い訳も一理あるように見える。