10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「……。」
あと少ししたら帰ろう。集中力が切れてきて、頭も体も微妙に重い。
やっぱり、コーヒー淹れようかな……。
花柄のマグカップを手に、無意識に給湯室へ足を運ぶ。
コーヒーがそろそろ切れそうだな、なんて考えていると、背後から急に声がした。
「白石?」
思わずビクッと体が反応する。
振り向くと、そこには――黒崎社長が立っていた。
「まだ残ってたのか?」
「は、はい…すみません」
なんで謝ってしまったのか、自分でも分からない。
でもこの人を前にすると、やっぱり自然と背筋が伸び、威圧感に押されてしまう。
社長はデスクに腰かけて腕を組み、じっとこちらを見つめる。
その視線――これだ。苦手だ。
この独特の圧が、体の奥までじわりと伝わってくる。
思わず後ろに一歩下がった瞬間、手に持っていたマグカップが揺れ、コーヒーがこぼれる。
「あっ…つ…!!」
慌てて小指を見つめると、熱いコーヒーがじんじんと痛みを刺す。
びっくりして固まっていると、「おい!」勢いよく私の手を掴んだのは社長だった。
触れた指先は熱さも手伝ってか、妙に近く感じる。