10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
今まで、どれだけ疲れていても、どれだけ仕事が終わらなくても、弱音だけは吐きたくなかった。周りにそれを見せるのも嫌だったし、自分の中で抱えて消化するのが当たり前だと思っていた。
頼られるのは好きだし、期待に応えることにやりがいも感じていた。
仕事だって、趣味だと言えるくらいには好きだった。
だけど――それでも、疲れないわけじゃない。限界が来ないわけじゃない。ただ、それを“誰かに気づかれる”ことだけは、ずっと避けてきたはずだったのに。
よりにもよって、まだ深く関わっているわけでもない黒崎社長に、そんなふうに見抜かれるなんて思ってもみなかった。
どうして分かったんだろう。どうして、あの一言をかけてくれたんだろう。
不意に、あの人の手を思い出す。
私の手を掴んだ、あの、長い指。
マウスを持つ右手に重ねられた、体温。
きちんと手入れされた指先は綺麗で、それでいてどこか力強さを感じさせた。私の手とはまるで違う、大きくて、しっかりとした男の人の手。
「ちょっと、ちょっと、梨沙?顔真っ赤だけど大丈夫?」
「へっ?」
急に名前を呼ばれて、はっと現実に引き戻される。