10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「お前、飲みすぎじゃね?」
「た、たしかに…?」
ははは、と軽く笑ってごまかしてみせたけれど、本当は自分でも分かっている。
今日のお酒の量は、むしろいつもより少ないくらいだってこと。
なのにこんなに顔が熱いのは――理由なんて、ひとつしかない。
あぁ、もう…。
なんで今、黒崎社長のことなんて思い出したんだろう。
頬の熱は引くどころか、どんどん広がっていく気がして、余計に意識してしまう。
「黒崎社長は恋人いるのかね~」
「どうだろうね」
できるだけ平静を装って答えたつもりだったけど、ちゃんと普通に聞こえていただろうか。
そういえば、前に美織ちゃんもそんな話をしていた気がする。
「恋人がいなくても、婚約者くらいいるんじゃねーか?御曹司だぞ?」
井口は当たり前みたいにそう言いながら、通りかかった店員さんを呼び止める。
「生、2つ追加で。白石は?」
「うーん…私は、今日はもうやめとこうかな」
グラスの中に残ったわずかな液体を見つめながらそう答えると、「えー、もっと飲もうよ~」と紗耶香が子どもみたいに頬を膨らませて、私の手をぎゅっと握ってくる。
「……そっか。恋人がいなくても、婚約者はいるかもしれないのね」
ぽつりと、独り言みたいに呟いてしまう。