10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「なになに梨沙。やっぱり気になる?」
紗耶香の目が一気に輝く。その反応の速さに、思わず苦笑しそうになる。
「そういうのじゃないよ」
すぐに否定するけれど、どこか歯切れが悪いのは自分でも分かっていた。
「…ドラマみたいだなあって。きっと、最初から全部持ってる人なんだろうね」
何気ないつもりで言った言葉だった。本当に、深い意味なんてなかった。
――でも、その瞬間、目の前の紗耶香の表情がすっと曇っていくのが分かった。さっきまで楽しそうに笑っていた顔が、みるみるうちに静かになっていく。
「……。」
あ、と思ったときにはもう遅かった。
…やってしまったかも。こんなつもりじゃなかったのに。
「梨沙。やっぱり、まだ引きずってるの?後悔してる?」
紗耶香のその一言に、心臓がドクンと嫌な音を立てた。
「さっさと忘れろよ、あんなやつ」
「井口、あんたねえ。そんなに簡単な話じゃないのよ」
すかさず紗耶香がたしなめる声が飛んで、少しだけ場の空気が揺れる。
「…ごめんね、ふたりとも」
小さくそう呟くと、自分でも情けないくらい声が弱かった。