10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
井口の言うことは、きっと正しい。終わったことなんだから、さっさと忘れてしまえばいい。
頭では何度もそう思ってきたし、そのつもりでここまでやってきたはずなのに――心だけが、うまくついてきてくれない。
「…未練があるわけでも、後悔してるわけでもないの…ただ、時々思うの。私みたいな人間を好きになってくれる人なんて、もういないだろうなって」
言ってしまった瞬間、胸の奥に溜まっていた何かが、少しだけ外にこぼれた気がした。
最後に誰かと付き合ったのは、もう2年前になる。時間だけ見れば、とっくに前に進んでいてもおかしくないはずなのに、その実感はどこにもなかった。
恋愛は、昔から得意じゃない。相手に何かを期待すること自体が、どうしても苦手だった。
期待してしまう自分が弱く感じて、どこか恥ずかしくて、情けなくて、そんな自分を見せるくらいなら最初から距離を取ったほうがいいって、いつの間にか思うようになっていた。
だから、うまくいかなかったのかもしれない。
それでも――今さら変われる気もしなかった。
「…仕事は、好きだよ。大変だけど、その分やりがいもあるし、自分のために頑張ればいいだけだから」
誰かの気持ちを探ったり、不安になったり、そういうことを考えなくていい。やった分だけ結果が返ってくる世界のほうが、ずっと分かりやすくて、ずっと楽だった。