10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「…もう、それも聞き飽きたからー」
半分呆れながら返すと、「ほんとだって!ね、井口」急に話を振られた井口が、ビールを飲みかけたまま「俺!?」と目を丸くする。
その反応が面白くて、紗耶香はくすくす笑っている。
「まー、そうだな。あと5年経っても貰い手がいなかったら、俺が貰ってやるよ」
「なんであんたが上からなのよっ!」
ふたりの軽快なやり取りに、張り詰めていた空気が一気に緩んで、気づけば私の口元にも自然と笑みが浮かんでいた。
私は半分ほど残っていたグラスをぐっと持ち上げて、一気に喉へ流し込んだ。
冷たい液体が体の中に落ちていく感覚と同時に、胸の奥に溜まっていたもやもやも一緒に流れてくれればいいのに、なんて思いながら。
空になったグラスを勢いよくテーブルに置くと、小さな音が響いた。
「…私、もう恋愛はしないって決めたの!」
勢いのまま、言葉が口をついて出る。
自分でも少し驚くくらい、はっきりとした声だった。紗耶香と井口が、そろってぽかんとした顔でこちらを見る。
「梨沙、本気?」
「超本気!」
間髪入れずに言い切ると、胸の奥がきゅっと締めつけられるような感覚があった。
それでも、引き返すつもりはなかった。
もう恋愛に振り回されるのは、終わりにしたい。
誰かの一言で一喜一憂したり、相手の気持ちを考えすぎて自分を見失ったり、そんな自分はもう嫌だった。
あの日感じた、胸が高鳴るようなあの感覚だって――きっと気のせいだ。
ただの一時的な錯覚。そう思い込めば、それでいいはずなんだ。