10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「……ふぅ」
肩をぐっと親指で押すと、ぎゅっと凝っているのがわかる。
結構、固まってるな……整体にでも行きたいな、とぼんやり思いながら、ひとり残ったオフィスの静けさを感じる。
昨日までは部長も残っていたけれど、今日は娘さんの誕生日だから、と早めに帰ったらしい。
静まり返った部屋で椅子から立ち上がると、腰に鈍い痛みが走った。
これが、私がデスクワークで一番嫌いな瞬間。
ぎこちなく体を伸ばしながら、オフィスの蛍光灯の下で自分の影をぼんやりと見つめる。
気だるさと疲労が入り混じった重い空気の中、トイレに向かおうと歩き出したその瞬間、視界が突然ぐらりと揺れた。
「…っ、」
視界がぼやけ、傾いていく。
足元がふらつき、倒れそうになり思わず廊下の壁に手を伸ばす。
体に痛みはないはずなのに、頭の中は混乱でいっぱいで、意識が霞んでいく。
次の瞬間、視界にぼんやりと映る人影があった。
「白石!大丈夫か!?」
誰かが、私の名前を呼ぶ声が耳に届く。
どこか温かく、柔らかい声。
その声に引き寄せられるように、意識が少しずつ溶けていき、優しい香りに包まれる。
ふっと目を閉じたまま、心の中で安心と不安が交錯する。
そのまま、私は何もかもを忘れたように、静かにその瞬間に身を任せた。