10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない



ない、ない、どこにもない!


カバンも、コートも見当たらない。

頭の中が真っ白になり、焦りと混乱で足がもつれる。



急いで部屋のドアに向かって走ったその瞬間、勢いよく誰かとぶつかり、倒れそうになる。

思わず手を伸ばす間もなく、背中に柔らかく温かい手が回され、抱きとめられた。

驚きと緊張で息が止まりそうになりながら、かすかに香る優しい香りに心が一瞬で凍りついた。

体を支えられた感触は予想以上に安心で、それと同時に、胸の奥が急にざわついた。

この人は……。


「危なっかしいな、ほんと」


私の体が、すっぽりと余裕で抱きしめられる大きさ。

聞き覚えのある、低く落ち着いた声に、胸が少し早鐘を打った。


「寝れた?」


問いかけられて、恐る恐る顔をあげると、視界に飛び込んできたのは……黒崎社長だった。


「…っ、な…なんで社長がっ……」

「昨日、倒れただろ?どうしようもないから俺ん家に連れてきたんだよ」


あまりにも自然に言われて、私の頭の中は混乱の渦に飲み込まれる。


…っ!いつものきっちりした髪型ではなく、前髪をおろしていて、少し印象が違う。

しかも、いま私……抱きしめられている?



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