10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
マンションを出て、急いでタクシーを捕まえる。
マンションから会社まではわずか10分ほどで到着。
立地がいいところ……さすが御曹司、なんて思いながら、頭の中で「社長に見つかりませんように……!」と必死に祈る。
会社に着き、セキュリティゲートの前に立つと、何事もなかったかのように涼しい顔をして社員証をかざす。
経理部のある15階を目指してエレベーターに乗り込むと、7階で停止した。
「あれ?お前、今日休みじゃ?」
「…い、井口」
…な、なんで私が休みだって知ってるの!?
「ちょうど、経理行こうとしてたんだわ。体調不良って聞いたけど?来て大丈夫なの?」
大丈夫かと聞かれると、大丈夫じゃないかもしれないけれど。
「…別に、大丈夫」
「ふーん。まあ、お前体も丈夫だしな」
その言葉、どういう意味よ……!
思わずムカッと来て、ドン!と体当たりすると、その勢いで井口が壁にぶつかった。
「いってーな!」
「あんたには、デリカシーってものがないのよ!」
キッと睨みつけると、奴は笑っていて、それが余計にムカつく。
黒崎社長は、こんなんじゃなかったのに……。
…って、また何考えてるの、私!
黒崎社長のことなんて、今はいいじゃない!!
顔がなぜか一瞬で赤くなった気がして、思わず肩に力を入れ直す。
井口に「なに百面相してんだよ」とからかわれるが、今はそれどころじゃない。