10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
気づいたら、社長の秘書だという男性の運転で病院まで連れて行かれていた。
車内では黙って座っているしかなく、窓の外を流れる景色も、いつもよりぼんやりとしか目に入らない。
到着すると、されるがままに体温を測られ、血圧を測られ、心電図を取られ、点滴の準備までされて、結局、原因は過労だと診断された。
診察室を出ると、待合室に黒崎社長が座っていて、足を組み、目をつむっている。
隣にそっと腰を下ろすと、言いたいことは山ほどあるはずなのに、どうしても言えない。
昨日助けてくれたのは紛れもなく社長で、昨日だけじゃなく、いつも気にかけてくれているのを、私は知っているのだ。
『代わりはいくらだっている』
さっき言われた言葉が頭の中でぐるぐる回る。
「…私だって、分かってますよ」
つぶやいた声は、かすかに震えていた。
残業続きのストレスなのか、それとも緊張なのか、この人の前では弱いところを見せてばかりで、油断したらすぐに泣いてしまいそうになる。
今、社長が目を閉じていてくれてよかった。視線を合わせる勇気がまだない。
「…白石?」
「っ、はい」
小さな声で返事をすると、社長は目を開けてこちらを見た。
「体調は?」
「大丈夫です。過労だって言われました」
涙がこぼれないように、ぎゅっと手でぬぐう。
社長は、はぁーと大きなため息をついた。
……なんて言われるんだろう、もしクビになったらどうしよう。
怖くて手が震え、ぎゅっと握りしめて俯く。胸が押し潰されそうで、息がうまくできない。