10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
もしかして黒崎社長にとって、今の私は5歳児くらいに見えているんじゃないだろうか。
さすがにそこまで子どもじゃない、と反論したいのに、その視線に捕まると何も言えなくなる。
ここまで強引に囲い込まれてしまったら、さすがの私も「やっぱり会社行きます」なんて言えるはずもない。
また約束を破ったら、今度こそ本当に終わりだ。クビにされるか、それとも——あの恐ろしい選択肢、社長秘書行き。
どちらに転んでも、ろくな未来が待っていないのは分かりきっている。
「……はい」
コク、と小さく頷くと、黒崎社長の表情がほんのわずかに緩んだ。
その変化は一瞬で、見間違いかもしれないくらいだったけれど、確かにそこには安堵の色があった。
どうしてそんな顔をするのか、分からない。
「私の住んでるアパートはどうするんですか…」
ふと現実的な問題が頭をよぎる。
家賃だってあるし、光熱費だって、まだ契約は生きている。急にこんなところに住むことになって、全部そのままにしておくなんて、どう考えても無駄が多すぎる。
「解約しとく」
「………。」
……解約しとくって、そんな簡単に言うこと?そこ、私の生活が詰まってる場所なんですけど。