10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
社長ほどじゃないにしても、私はそれなりに貯金があるほうだと思う。
無駄遣いはしないし、コツコツ積み上げてきたお金だってちゃんとある。
最近は給料も上がって、思い切って気に入った部屋に引っ越したばかりだったのに。
日当たりも良くて、駅からも近くて、少しだけ背伸びしたあの部屋。
ようやく手に入れた“自分の場所”だったはずなのに——それが、こんな形であっさり手放されるなんて思ってもみなかった。
「明日、アパートに荷物取りに行くからそのつもりで」
まるで業務連絡みたいに淡々と告げられるその言葉に、「……はい」と返すしかできない自分が情けない。
本当なら、「ちょっと待ってください」とか、「せめて自分で整理させてください」とか、言うべきことはいくらでもあるはずなのに。何も言い返せない。
だって——こうなった原因は、全部自分にあるって分かっているから。
無理をして、倒れて、結果的にこうして囲い込まれている。
文句を言う資格なんて、どこにもない。
ぎゅっと拳を握りしめる。
じわじわと込み上げてくるのは、悔しさと、情けなさと、少しの寂しさ。
その全部を押し込めるみたいに俯いた、そのときだった。
ぽん、と頭に重みが乗る。
驚いて顔を上げると、大きな手が私の頭に置かれていた。
「今日はすぐ帰ってくる。それまで、逃げんなよ」
「……。」