10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない



……そういえば、この同居生活。いや、同居って言っていいのかな。まだ実感なんて全然ないし、そもそもこれは一時的なもののはずで……そうだよね?

ここには一体、いつまで住めばいいんだろう。数日?それとも数週間?まさか……一生?いやいや、それはさすがにない。


思わず小さく首を振る。


でも、この家のどこにも、“恋人がいる”ような気配はなかった。女性物の私物もなかったし、誰かと暮らしている痕跡もない。

……まあ、私の分のアメニティは、あの神宮寺さんが完璧に用意してくれていたけど。


「いつかは結婚するんだよね……」


ぽつりと、独り言がこぼれた。

相手は黒崎グループの御曹司。きっと、周りが放っておくはずがない。政略結婚だってありえるし、もうすでに婚約者がいたって何も不思議じゃない。むしろ、その方が自然なくらいだ。


そんなことを考えているうちに、胸の奥が一瞬だけチクりと痛んだ。


……なんで?自分でも理由がわからなくて、少しだけ戸惑う。


「……私には、関係ない!」


その違和感を振り払うように、私は勢いよく枕に顔をうずめた。

ふわっと広がる、さっきと同じ爽やかな香り。


「……社長」


気づけば、小さくその言葉を呟いていた。

柔らかなベッドに包まれながら、私はそのまま、何も知らないまま深い眠りへと落ちていった。


< 72 / 195 >

この作品をシェア

pagetop