10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
少ししてから、さっきの「可愛い」だのなんだのはきっと聞き間違い、あるいは寝起きの幻覚みたいなものだと無理やり結論づけて、私は深呼吸をひとつした。
……そう、あれは気のせい。そう思わないと、まともに顔を合わせられない。
胸の奥に残るざわざわを押し込めながら、ドキドキと落ち着かない鼓動を感じたまま、そっと部屋を出てリビングへ向かう。
ドアを開けた瞬間、ふわっと広がるいい匂いに思わず足が止まった。空腹を刺激する優しい香りに導かれるように視線を向けると、テーブルの上には綺麗に並べられた料理の数々。
「あの……これ、全部社長が?」
恐る恐る尋ねると、「そうだが?」と、なんでもないことのように返される。
……や、やっぱり。仕事だけじゃなくて、こんなことまで完璧にこなせる人なんだ。この人、本当に何者なの……。
内心で軽く絶望しながらも、椅子に座ると、社長が自然な動作で食事の準備を整えてくれた。
「いただきます」ほとんど同時に手を合わせて、食べ始める。
まず、見た目がすでに完璧すぎる。彩りも盛り付けも、まるでお店みたいで、一瞬どこかの高級レストランに来たのかと錯覚するレベルだ。
そして、一口食べた瞬間、思わず目を見開いた。……美味しい。びっくりするくらい、優しい味。濃すぎず、でもしっかりとした旨味があって、体にじんわり染み込んでくるような感覚。
しかもメインは魚で、重たすぎない。もしかして……私の体調を気遣って?そんな考えが頭をよぎる。