10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
席に着いても、誰一人として口を開こうとしなかった。
いつもなら、誰かが小さな冗談を言って空気を和ませるはずなのに、今日はそれすらない。
ただ重たい沈黙だけが会議室を満たし、時計の針の音さえやけに大きく感じられる。
私は椅子に座りながら、膝の上に置いた資料をぎゅっと握りしめていた。指先が白くなるほど力を込めていることに、自分でも気づいていたのに、どうしても力を抜くことができなかった。
やがて、部長がゆっくりと前に立ち、周囲を見渡す。その一瞬の間が、やけに長く感じられる。
「皆さん、突然ですが――本日付で、当社星川商事は黒崎グループに買収されることになりました」
その言葉が耳に届いた瞬間、時間が止まったような感覚に陥った。
頭の中で意味を理解するまでに、わずかな空白が生まれる。
買収――?
今、何て言ったの?
一瞬遅れて、その意味が現実として押し寄せてきた。
「買収…?」
「黒崎グループって、あの?」