10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「梨沙は?」
「…っ、だから名前っ」
「呼んでくれないの?俺のこと」
「…そ、それは」
私が……黒崎社長のことを、名前で呼ぶってこと?そんなの、無理に決まってる。
だって、この人は社長で、私は部下で――その距離は、簡単に越えちゃいけないはずなのに。
恐る恐る顔を向けると、社長はハンドルの上に腕を組んで、じっとこちらを見つめていた。その視線から逃げられない。
早くドアを開けて、車から降りればいいのに。「呼びません!」って、はっきり言えばいいのに。なのに、どうしても体が動かない。
このままじゃだめだ。ほんとにだめ。私は、恋愛なんてしないって決めたんだ。仕事に集中するって。こんなふうにときめくのだって、ただの勘違いで、気のせいで――。
「わ、たし……荷物とってきます!」
半ば逃げるようにそう言って、シートベルトを外そうとした、その瞬間だった。
パシッ、と左手首を掴まれる。
勢いのまま引かれて、背中がシートに押し付けられた。
「っ……!」
一瞬で距離が縮まる。息がかかるくらいの距離に、社長の顔がある。
驚きすぎて声が出ない。ただ目を見開いて、固まることしかできなかった。