10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
「見ないでください……!」
もう、ほんとに無理。なんでこんなことになってるの。荷物取りに来ただけなのに。
たったそれだけのはずなのに、どうしてこんなに振り回されてるの。
「……降りるんじゃなかったのか?」
少しだけからかうような声。はっとして現実に引き戻される。
……そうだ、私、荷物取りに来たんだった。
「お、降ります!」
半ばやけくそみたいにそう言って、今度こそ勢いよくドアを開ける。外の空気が一気に流れ込んできて、少しだけ頭が冷える気がした。
そのまま振り返らずに車を降りて、アパートの階段へと向かう。
心臓はまだうるさいくらい鳴っているし、顔の熱も全然引かない。
でも――。
「……蒼さん、って……」
小さく呟いて、自分でまた顔が熱くなる。
たった一言、名前を呼んだだけなのに。こんなにも心が乱されるなんて、思ってもみなかった。
ほんとに、ずるい。この人といると、自分じゃなくなるみたいで――どうしたらいいのか、分からなくなる。