10年越しの溺愛——御曹司は私を逃さない
別に今さら社長にどう思われたっていい。売れ残りだと思われたって構わない。
そう思っているはずなのに、それでもどこかで見栄を張ってしまう自分がいるのが厄介で、私は恐る恐る社長の顔を見上げた。
黒崎社長は腕を組んで、じっと何かを考え込んでいる様子。
もしかして断られる?いや、それでもいい、でもせめて洗濯だけは!そこだけは譲れない!いくら売れ残りだなんて自分で思っていたとしても、この最低限の尊厳だけは守りたい!
「いいよ」
社長は短く、それだけを言った。
よかった、と心の中で呟いたのも束の間、「でも」続けられたその言葉に、また一瞬で心臓が強く跳ねる。
「梨沙が食事を作ってくれんなら、できるだけ一緒に食べたい。それなら、皿を洗うのも楽だろ」
その言葉の意味を深く考える前に、私は反射的に「は、はぁ……でも、皿洗いも私がしますよ?」と返してしまう。食事を作ると言い切った時点で、後片付けまで含まれているのが普通だと思っていたからだ。
「それはいい。俺がやる」
間を置かずに返ってきた言葉に、思わず瞬きをする。
「……なぜ?」
すると社長は、ほんの少しだけ視線を落としてから、何でもないことのように言った。
「お前の手、荒れんの嫌なんだよ。せっかく綺麗な手してんだから」
その瞬間、思考がぴたりと止まる。
き、綺麗な手……?そんなはずない。