カーテンコールはまだ鳴らない。
侑玖のスーツから、微かに煙草の匂いがする。
いつものアメスピ。
それなのに、今日はどこか違う匂いが混じっている気がした。
鉄のような、冷たい何か。
(気のせい、か)
響華は、無意識に撫でる手を止めない。
侑玖は目を閉じたまま、低く息を吐く。
「……響華、変わんねえな」
「何が」
「そうやって、何も聞かないでいてくれるとこ」
響華は小さく笑った。
「言えないなら、聞いても意味ないでしょ」
それに、と続ける。
「仕事の愚痴くらい、聞くよ。
私だって言えないこと山ほどあるし」
皮肉半分、本音半分。
侑玖は、ふっと短く笑った。
「そーゆーとこだって」
額を預けたまま、ぼそりと呟く。
数秒。
夜の街灯の下で、二人は静止したままだった。
通り過ぎる人も、ほとんどいない。
侑玖の指が、そっと響華のスーツの袖を掴む。
ほんの一瞬。
そして、すぐに離れた。