カーテンコールはまだ鳴らない。
「……さんきゅ」
顔を上げる。
もう、いつもの笑顔に戻っている。
少しだけ、無理をしている笑顔。
「腹減ってね? 軽くなんか食う?飲みナシで」
「軽くならね。ほんとに軽く」
響華は肩をすくめる。
「寝るって言ったの自分だから」
「はいはい、真面目か」
いつもの掛け合い。
けれど、さっきの数秒は、確かに重かった。
侑玖はポケットに手を突っ込み、空を見上げる。
夜は、やけに静かだ。
胸の奥に残るざらつきは、消えない。
けれど。
さっきよりは、息がしやすい。
(最低だな、俺)
心の中で、自嘲する。
こんな血に塗れた手で。
こんな汚れた人間が。
響華のような、綺麗で、澄んだ人に触れ、すがっている。
それでも、会いたかった。
その感情だけは、どうしようもなく本物だった。