カーテンコールはまだ鳴らない。

「俺ハンバーグいこ。辛いソースのやつ」

「結局辛いのなんだ」

「ストレス発散になるっしょ」

さらっと言った言葉。

響華は深く拾わない。

「じゃあ私、和風パスタにする。」

店員を呼び、注文を済ませる。

ドリンクバーに行こうと立ち上がりかけた響華に、侑玖が言う。

「俺取ってくるよ。何飲む?」

「コーヒー。ブラックで」

「マジ?眠いんじゃなかった?」

「眠いからだよ」

「無理すんなってー」

そう言って立ち上がる背中を、響華はぼんやり見送った。

歩き方はいつも通り。

背筋も伸びている。

なのに、どこか硬い。

(……気のせいかな)

テーブルの上に置かれた、侑玖の手。

さっき肩に額を預けてきたときの重さを思い出す。

あれは演技じゃない。

本気で、限界だった顔。

戻ってきた侑玖は、グラスを二つ置いた。

「はい、ブラック姉さん」

「誰が姉さん」

「昔から姉御肌じゃん」

「初耳なんだけど」

侑玖は笑う。

その笑顔はちゃんと明るい。

けれど、目の奥のどこかに、暗い影が沈んでいる。

水を一口飲んで、ふっと視線を落とす。

一瞬。

ほんの一瞬だけ。

何かを振り払うように、強く瞬きをした。
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