カーテンコールはまだ鳴らない。
並んで立つ二人の間に流れるのは、会話の少ない、
けれど居心地のいい沈黙。
忙しないオフィスのすぐ外で、
ほんの数分だけ、時間がゆっくり流れているようだった。
響華は缶を持ったまま、ふーっと長く息を吐いた。
白い息にはならないが、胸の奥に溜まっていたものが、
少しだけ外に出た気がした。
「……なんかさ」
軽く苦笑して、視線を自販機の明かりに向ける。
「もっと、やりがいのある仕事だと思ってたなー。
入ったばっかの頃は」
缶の縁に指をかけたまま、ぽつりと零す。
愚痴というほど強くはない、けれど紛れもない本音。
「悪いやつ捕まえて、はいスッキリ、みたいなさ。
でも現実は、書類と睨めっこばっか」
そう言って、もう一口カフェオレを飲む。
甘さが、どこか虚しく舌に残る。