カーテンコールはまだ鳴らない。
オフィスを見渡す。
数人の同僚はまだ残っているが、皆自分の仕事に集中している。
そして――
隣のデスク。
「……あれ」
蓮の姿がない。
数分前まで、確かにいたはずだ。
資料を読み込んでいた横顔を、視界の端に見ていた。
「お手洗いかな……」
小さく呟く。
けれど、なぜか胸の奥に小さな違和感が残る。
蓮は、基本的に席を立つときは一言告げるタイプだ。
無言でいなくなることは、ほとんどない。
……まあ、考えすぎか。
響華はそれ以上深く追わず、パソコンの電源を落とした。
画面が暗くなり、資料も思考もいったん閉じられる。
ジャケットを整え、鞄を肩にかける。
椅子を机に戻し、軽く周囲に会釈してからオフィスを出た。