カーテンコールはまだ鳴らない。
* * *
警視庁の正面玄関を出ると、夜気がひやりと頬を撫でた。
昼間の喧騒が嘘のように、辺りは静かだ。
遠くで車の走る音がするだけ。
階段を降りながら、響華はポケットに手を入れる。
タバコに触れかけて、やめた。
視線を上げたとき――
「お、いたいた」
街灯の下、軽く手を上げる男がいた。
暗いグレーのスーツ。
ワインレッドのネクタイ。
金のメッシュが、夜の光を拾っている。
「迎えに来た〜」
いつもの調子。
いつもの軽さ。
けれど。
「……早いね」
響華が歩み寄ると、侑玖は笑った。
「言ったじゃん。近くいたって」
その声は明るい。
けれど、どこか掠れている気がした。