社長、その溺愛は計算外です
午後、私は残された唯一のプロジェクトに向き合った。
中規模の食品メーカー『陽光フーズ』の在庫管理システム導入案件。今週の木曜日に最終提案のプレゼンテーションが控えている。
エレガンス・コレクションを外された今、私にはこのプロジェクトしか残っていない。
──絶対に成功させなければ。
◇
水曜日の夜。二十二時を回ったオフィスには、私一人だけが残っていた。
人気の引いたフロアに、タイピングの音だけが乾いたリズムで響く。
画面に広がるのは、『陽光フーズ』への提案書。そこには、最新のAI需要予測機能や、複雑な自動発注システムがこれでもかと盛り込まれていた。
技術的には完璧だ。けれど、読み返せば読み返すほど、何かが引っかかった。
『現場の負担は、増やしたくないんです』
『新谷さん、うちはシンプルが一番なんだよ』
『まずは、一歩ずつ導入できるものがいいな』
担当の佐竹部長が何度も繰り返していた言葉が、耳の奥で蘇る。
今の私の提案書は、クライアントのためじゃない。自分の評価を取り戻すため、自分の不安を埋めるためだけの、独りよがりなもの。
──何をやっているんだろう、私は。