社長、その溺愛は計算外です
目を閉じると、あの夜、バーで交わした言葉が頭を過ぎった。
『スピードを優先した結果、本質を見失ったことは?』
あの夜、私は圭佑さんにそう言った。
今、本質を見失っているのは、私の方だった。
圭佑さんは、私に嫌われるのが怖くて、出自を隠した。
私は、自分の価値が下がるのが怖くて、クライアントに不誠実な提案をしようとしている。
「……やっていることは、彼と同じじゃない」
情けなくて、涙がこぼれそうになった。
今、私に必要なのは、最新のAI機能じゃない。クライアントの声に真っ直ぐに向き合う『誠実さ』だ。
それはきっと、圭佑さんとの関係においても同じなのだ。
プレゼンまで、あと十六時間。
「……最初から、やり直そう」
私は、自分に言い聞かせた。
そして、全てのページを白紙に戻した。
もう時間は残っていない。けれど、迷いはなかった。
AI需要予測も、自動発注も、派手な機能は全て削ぎ落とす。
佐竹部長が求めていた「段階的な導入」を軸に、使いやすさに特化したシンプルな設計へと書き換えていく。
五十ページあった資料が、二十八ページにまで減った。
削れば削るほど言葉は研ぎ澄まされ、クライアントの声だけが、真っ直ぐ立っていた。
保存ボタンを押したとき、時計の針は深夜一時を指していた。
その瞬間、スマホが激しく振動した。
表示されたのは、先週直接会ったあの名前。
『水沢麗華』
画面を見た瞬間、息が止まった。
こんな深夜に、何の用だろう。
二十四時間、私の動向を監視しているとでも言うようなタイミングに、背筋が凍りつく。
震える指先で、私は恐る恐るメールを開いた。