社長、その溺愛は計算外です
【圭佑 side】
梓からの返信を確認して、俺はハンドルに手を置いたまま、しばらく動けなかった。
『良かった』と送った。それだけで、今夜の俺にできることは終わりだ。
暗くなったスマホの画面を見つめながら、俺は今日、父親からかかってきた電話のことを考えていた。
『新谷梓のプロジェクトは潰した。身の程を教えるには、これが一番だろう』
スマホ越しに聞いた父の声は、感情がなかった。それが余計に、腹の底で冷たく燃えた。
俺が彼女に近づいたせいで、彼女が最も大切にしている「仕事」が傷ついた。
あのオフィスの窓に灯り続けた明かりを、俺は三時間、ただ見上げていた。
駆け上がることを、考えた。だが、すぐに打ち消した。
もし駆け上がれば、彼女はきっと俺を許してしまう。
慰めを求めているように見せて、梓にまた俺を許させることになる。それは違う。
今の俺には、その資格がない。
今すべきことは、梓を縛り付けているものを解くことだ。
明日、俺は父親に会いに行く。
政略結婚の破談。それだけを、通す。
首を縦に振らせる保証はない。あの父が、感情に動かされる人間でないことは、誰より俺が知っている。
だから、感情では話さない。数字で、論理で、利害で、向き合う。
それが俺のやり方だ。
俺はエンジンをかけ、夜の街へと車を走らせた。
明日の朝、すべてに決着をつけるために。